中国新彊ウイグル自治区における最近の水文環境の変化
デリヌル アジ(自然科学研究科・地球生命圏科学専攻:近藤研究室)
| 天山山脈、天池からボゴダ峰を望む | 三蔵法師も滞在した高昌国の故城 | トルファンの子供たち |
中国の西部、新疆ウイグル自治区における主要な水資源は地表水,地下水と氷河です。その中で,主に夏季に限られている降水と高山からの融雪水によって新疆の農業は営まれてきました。これまでの調査では、人口増加、開発による農業生産量の増加が更に水不足を助長し、水資源がどんどん減少していると考えられていました。実際に多くの河川で断流が発生し、湖は面積を縮小させてきました。一方、最近の河川における流出量は増加、湖における水域面積も増加しているようであり、必ずしも新疆の水資源は減少しているというわけでもなさそうです。
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| 1972.9.21 | 1977.9.22 | 1990.10.5 | 2003.5.26 |
この画像は新彊西部のエビヌール(エビ湖)のランドサット画像です。2003年の湖の面積は確かに増えています。このような湖面積の増加は新彊のほかの湖でも認められるのでしょうか。

そこで、エビ湖(D)だけでなく、ウロング湖(A)、ボステン湖(B)、アイディン湖(C)の湖面積も調べてみました。その結果、どの湖の面積も近年増加していることがわかりました。よって、新彊では湖への流入量は増えているようです。では、河川流量は増えているのでしょうか。

(A) 1956〜1986年、(B) 1987年〜2000年の期間における河川流量の変化。赤が減少、青が増加を表す。
中国では河川流量のデータは入手が困難なのですが、既存の報告書を調べることにより、1956年と1986年(A)と1987年から2000年(B)の間の河川流量の変化を地図で表示することができました。左のA図では、1956年から1987年の間は主に北新彊で流量が減少している河川が多いことがわかります。これは最近の人口増加や水利工事等は多くが北新彊で行われており、北新彊で人間活動が活発であったことと対応しています。
一方、1987年から2000年のデータでは、北新彊で河川流量が増加している河川がたくさん認められます。これはなぜでしょうか。

エビヌール周辺では農地は継続して増えている、すなわち人間活動は活発です。それでも湖の面積が増えているのは人間要因以外の要因が考えられそうです。
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| 1990年代の年平均降水量と1950〜1990年の年平均降水量の差 | 同期間の年平均気温の差 |
左の図から確かに、最近の降水量の増加傾向が認められます。河川流量の増加、湖面積の増加は気候要因で説明できそうです。これは新彊にとって良いことのように思えますが、さらに農業生産が伸びたとしても、それは持続可能でしょうか。
| カレーズの縦穴 | カレーズからの流れ | 地下水の揚水 | 水路の建設 |
トルファンでは、天山の雪解け水から涵養された地下水をカレーズと呼ばれる地下トンネルで何kmも導水してオアシス集落が形成されています。一番左は地下トンネルを連結させるための縦坑で、トルファンの風物詩となっています。このような水利用は自然の水循環の中から生活のために必要な水をとりだして、再び水循環系に返す持続可能な水利用といえます。
しかし、カレーズの建設、維持には大変な危険が伴います。最近はポンプにより地下水をくみ上げ、灌漑に利用する利用する農業が増えてきました。そのため自然の地下水涵養量を超える水利用が進み、カレーズの枯渇、地下水の低下問題が発生しています。
また、最近は新彊各地で、開水路による灌漑施設が増えているように思えます。その理由の一つとして最近の降水量の増加が考えられますが、もうひとつ、気温の上昇による氷河の融解も重要な理由の一つかも知れません。
しかし、一般に気候は周期的に変動し、増加した降水量はいずれ減少に転ずるかも知れません。氷河の融解は実際に報告されていますが、それが河川流量を増やしているとすると、それは氷河が存在する期間だけの話になります。
現在の水文環境が良好であるから、それにあわせて人間活動を活発化させると、将来維持できなくなる可能性があります。研究の成果を地域に返し、将来を見据えて現在の生活を考えること、これが安全・安心な生活につながります。日本は水は豊富ですが、エネルギーや食糧についてもっと真剣に考え、今の生き方を決める必要があるでしょう。